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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)3073号 判決 1973年10月30日

控訴人 廖興威

右訴訟代理人弁護士 上田幸夫

被控訴人 株式会社栄屋商店

右代表者代表取締役 杉山利郎

右訴訟代理人弁護士 堂野達也

同 堂野尚志

同 弘中惇一郎

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の主位的請求を棄却する。

控訴人は被控訴人に対し金一六二万四、一六四円及びこれに対する昭和四六年四月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は第一、二審ともこれを三分しその一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

この判決は、被控訴人において、その勝訴部分にかぎり仮りに執行することができる。

事実

控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、次につけ加えるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(事実上の陳述)

一、被控訴人

(1)  本訴請求を被控訴人は控訴人に対し金一六二万四、一六四円及びこれに対する昭和四六年四月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払いを求める請求に減縮する。

(2)  仮りに、本件売買代金及び貸金請求が理由がないとしても控訴人は被控訴人に対し別紙「手形目録」記載の各約束手形を振り出し、被控訴人はこれを所持しているので、右手形金の支払いを求める。

(3)  被控訴人は訴外有限会社双美商店より本訴請求金員のうち、金一〇〇万円の弁済を受けたので、これを昭和四四年八月一日から昭和四五年二月六日までの売掛金のうち約束手形が振り出されていない分の金三二万五、九二二円及び別紙手形目録記載の約束手形(振出人双美商店廖興威と表示して控訴人が振り出したもの)のうち①②の約束手形並びに③の約束手形のうち金一〇万六、一三五円の各債権に弁済充当をしたものである。

二、控訴人

(1)  右請求の減縮に同意する。

(2)  約束手形に基づく請求原因事実はすべて否認する。右被控訴人主張の約束手形はいずれも有限会社双美商店が振り出したものである。

(3)  被控訴人主張の弁済充当に関する事実は認める。

(証拠関係)≪省略≫

理由

一、被控訴人が酒、清涼飲料水、調味料等の販売を業とする株式会社であることは、当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によると次の事実が認められる。

(イ)  控訴人は、昭和二七年七月二一日設立した本店を東京都中央区八重州四丁目一番地とし、目的を軽飲食店の経営及びこれに附帯する一切の業務とする有限会社双美商店の代表取締役に昭和二七年から昭和四五年二月七日まで就任したが、この間、昭和四〇年六月七日同会社の本店を川崎市駅前本町二六番地に移転し、川崎駅ビル地階で一般食堂を経営し、被控訴人から酒類等の購入取引をしたが、控訴人は特に右有限会社双美商店の名を示し、その名において取引をしたものではないが、控訴人としては右会社の代表取締役として同会社のためにこれが酒類を購入し、被控訴人に対してはその取引にあたり「双美商店廖興威」の名において行なった。

(ロ)  被控訴人は、右の取引を行なうにあたりかねてから控訴人が有限会社双美商店の代表取締役であることを知っていたが、控訴人の示す「双美商店廖興威」として酒類の販売を行ない、被控訴人の請求原因第二項のとおり総金額の商品を売り渡し、同第三項記載のとおり順次各金員を貸し付けた。

以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫ 右の事実によると、控訴人は被控訴人主張の酒類等の購入及び金員の借入れにつき有限会社双美商店の代表取締役として、同会社の名を示して行なったものではないが、商人である有限会社双美商店及び被控訴人が右のような営業のためにする行為につき有限会社双美商店の代表取締役である控訴人が同会社のためにすることを示さなくとも右の購入及び借入れに関する行為は本人である有限会社双美商店のために効力を生じ、しかもその相手方である被控訴人において前認定のとおり控訴人が右会社の代表取締役であることを知っていたのであるから、控訴人が同会社のために右の行為をすることを知りうべきであったものというべく、従って、控訴人において右の行為が同会社のために効力が生じたとして自己に対する履行請求を拒む以上、被控訴人は控訴人に対しその履行を請求することはできない。したがって、被控訴人の控訴人に対しその主張の酒類等の販売代金及び貸金の支払いを求める本位的請求は理由がない。

二、次に、予備的請求である約束手形金請求の当否につき判断するに、≪証拠省略≫によると、控訴人は被控訴人に対し別紙「手形目録」記載の約束手形を振り出し、被控訴人において現にこれを所持している事実が認められる。控訴人は右約束手形はいずれも有限会社双美商店において振り出したものであると主張するけれども、商法第五〇四条は手形行為にはその性質上適用がないと解すべきところ、右各約束手形の振出人の表示は「双美商店廖フタミ、興威」となっていて、有限会社双美商店のためにすることを示す表示がないから、同会社が振り出したものと解することはできない。しかして、被控訴人主張の弁済充当に関する主張は控訴人において争わないところであるから、控訴人は被控訴人に対し約束手形金一六二万四、一六四円及びこれに対する各約束手形の満期の後である昭和四六年四月二七日から支払済みまで手形法所定の法定利率年六分の割合による利息を支払う義務がある。したがって、被控訴人の約束手形金の支払いを求める本訴請求は理由がある。

四、すると、被控訴人の控訴人に対する酒類等売買代金及び貸金の支払請求を認容した原判決は不当であって取消しを免がれず、この点に関する本件控訴は理由があるけれども、被控訴人の控訴人に対する約束手形金請求は理由があるからこれを認容すべきものとする。

よって、原判決を取り消し、被控訴人の主位的請求を棄却し、被控訴人の予備的請求を認容し、訴訟費用の負担については当事者双方の勝敗の割合を勘案してこれを定め、なお、被控訴人の勝訴部分につき仮執行の宣言を付するのを相当と認めて、主文のように判決する。

(裁判長裁判官 久利馨 裁判官 井口源一郎 館忠彦)

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